自分探しブログ

書き殴っています。文章や文章の種、記録やフィクションごちゃまぜです。

縛られてる奴の話

 

登場人物

励ましてる奴(励)

縛られてる奴(縛)

 

 

 

ゆっくりと明転

椅子に座って虚ろな顔をしている縛られてる奴を、ちょっと離れたところから励ましてる奴が見ている。

 

励「ねえ」

 

縛「…」

 

励「ねえねえ、」

 

縛「…」(一点を見つめて動かない)

 

励「ねーえー!!」

 

縛「なに」

 

励「だからさ、なんで縛られてんのさ。」

 

縛「だからさって何だよ」

 

励「わかってんだろ!何度も言ってるじゃないか、お前縛られてる縄ほどけよって!」

 

縛「そうだね」

 

励「そうだねじゃないよ。そうだねなんてミリも思ってないじゃん、、」

 

縛「それはそうだよ」

 

励「どっちなんだよ!」

 

縛「はあ。」

 

励「監禁されてるとかじゃないし、早く縄ほどけよ!自分でほどくか、ほどけないなら誰かにほどいてもらえばいいじゃん!」

 

縛「そうだねえ」

 

励「ほら!そうやってずっと。」

 

縛「いや だってさ…」

 

励「だって?」

 

縛「だって、」

 

励「だって、?」

 

縛「だって」(うなだれる)

 

励「…僕には無理そうだったからさ、それはほんとにごめんだけど、でもどうせ縄だし頑張ればほどけるんじゃないの?」

 

縛「ほどけんのかねえ。」

 

励「いや、頑張ってよ。」

 

縛「は?」

 

励「ちょっと頑張ればほどけるでしょ!声だして「解いてくれー!」って叫ぶとかさ、絶対誰か気づいてさ、ほどいたりハサミで切ってくれたりするでしょ。つーかここ自分の実家の自分の部屋じゃん。家族と住んでんじゃん。おかしいよ!家族に助けてもらえよ。」

 

縛「…」

 

励「もう何日?こうなって。」

 

縛「3年。」

 

励「さんねん??????さんねんって3年?!?!馬鹿なんじゃないの!!!」(笑っている)

 

縛(小声で)「馬鹿だよ」

 

励「えっ?(笑)」

 

縛「馬鹿だよ!」(倒れ込む)

 

励「ごめんて。」

 

縛「…」

 

励「…」

 

しばし沈黙

 

縛「ほどきたいよ」

 

励「へ」

 

縛「ほどきたいよ、縄。でも無理だよ。」

 

励「無理じゃな」

 

縛(さえぎって)「今は無理。」

 

励「今は?」

 

縛「この縄、いつの間にか私を縛ってたんだよ。」

 

励「えっ?そんなことあるわけないじゃん。」

 

縛「あるんだよ。」

 

励「ない!誰かがやったんだろ?」

 

縛「違うよ。いつの間にか、自分で自分を縛ってたんだ。」

 

励「はあ??そんなわけない!」

 

縛「そんなわけあるの。」

 

励「いーや!絶対にない!!」

 

縛「あーるーの!!!!」

 

励「…なんで。」

 

縛「わかんないよ。」

 

励「またわかんないって言ったー。毎日毎日わかんないわかんないって、早く助けてもらえよ」

 

縛「君にはこの縄、見えるんだもんな」

 

励「…えっ?」

 

縛「縄、見えてくれたんだ。」

 

励「見えてくれた、ってなんだよきもいな言葉が。

だってどう見ても縄に縛られて動けなくなってるよ。」

 

縛「普通の人にはこの縄は見えないよ?」

 

励「…」

 

縛「だって私は生きてる。縛られても3年生きてるんだよ」

 

励「…」

 

縛「生活してるんだから。ギリギリで最低限のことしてうっすい欲も満たしたことにしてずっと。

どれだけしんどくても、めんどくさくてもどうにかなってきちゃったの。生きてきちゃったの。

……君は他人じゃないじゃんか。」

 

励「そうだよ。」

 

縛「何?君はこうなんていうか…私の中にいるわけじゃん。思考のうちの一種って言えばいいの?」

 

励「そうだよ。わかってんじゃん。」

 

縛「お前もわかってるだろ。縄ったって私の頭の中の話。考えすぎて苦しくなったのに助けを求められなくて、自分の自由を、余白を、生きがいを、楽しみを、自分で自分の心をどんどんきつく縛ってってるってこと。ついでに寝込んじゃって体力無くなってほんとに動かないから、リアルに縛られてるも同然。」

 

励「今からでも遅くないから、誰かに助けてもらえよ。」

 

縛「あー。」

 

励「なんか間違ったこと言った…?」

 

縛「いないよ。誰も。」

 

励「えっ?」

 

縛「私を縛ったのは他人じゃないし。私が縛られてるのに気づいて一瞬で縛りを解く魔法の人もいない。私が誰かに助けを求めてもきっとその人を困らせるだけで私も後悔するだけだよ。なーんにも解決しない。ほんとはお前みたいな奴が、『大丈夫だよ、マイペースでいいんだ。人と自分を比べないで。』って声かけるだけで、いろんな人の縄を断ち切っていけるんだよ。お前を役立たせてやれなくてごめんな。いやお前も私も私なんだけど。はは」

 

励「適当なこと言ってごめんなさい。」

 

縛「適当なことなんかじゃないよ。君の言ってることは正しいもん。私が悪いんだ。もっと早く誰かを頼ればよかった。でも気づけなかった。ひとりでできることが最強だと思って、いつの間にか周りには自分から話しかけられなくなってて、今までやってきたこと全部、希望を持って全力でやってきたはずなのに、私は何も変われてないし、何にもしてないし、常識が、当たり前がどんどん当たり前じゃなくなって、でも大丈夫?って聞かれたら平気です!って言っちゃうし、話聞いてくれそうな人がいてもしんどいしんどいって自分のこと何もわかんないし、自分は良かれ悪かれ特別でありたいって変なこと思っちゃってるし、もうダメだわ、誰かの代わりに死にてえ、あーあ」

 

励「あのさ。」

 

縛「何?」

 

励「頑張ってるじゃん。」

 

縛「どこが」

 

励「今たくさん言葉浮かんできたじゃん。十分だよ。自分のこと100で理解してくれる他人なんていないし、理解してるみたいな顔されるのも嫌でしょ?

ずっと僕はちょっと言いすぎてた。頑張れよ、じゃなかったよ。頑張ってるもん。頑張ってて、縛られながらも生きてきて、どうすればいいかわかんなくても、生きてきた。お前、いや自分、十分だよ。満点だよ。」

 

縛「…」

 

励「苦しいけど、悲しいけど、自分の人生をちゃんと歩いてるじゃん。流されずに、逃げずにここまでやってきてるんだよ。すごいことかもって思っていいんじゃないかな。」

 

縛「…受け入れられないんだ。自分をちゃんと受け入れて、抱きしめて、褒めちぎってあげたいよ。もうこころが固まって動かない」

 

励「違う!、縛られてるだけ。お前のこころはちゃんと動いてるよ。負けてないよ、縄に。」

 

縛「…そっか。縄に負けてない、か。そっか。」

 

励「うん。」

 

縛「ほんと?」

 

励「ほんと。絶対いつかほどける。」

 

縛「適当なこと言ってない?」

 

励「言ってないよ。絶対負けないで。」

 

縛「全然信じられないわー。ここからも生きてたらいいことある?」(徐々に暗転)

 

励「あるよ。頑張ってるもん。」

 

縛「こんなにしんどくても?いつかなんとかなる?」

 

励「なる!」

暗転落ちきり

 

一呼吸あって

明転 

縛られてる奴が一人、寝ていたところから起きて、伸びをする

 

縛「あーーーーーー!!」

 

励ましてる奴との会話を思い出しふと声が出る、苦しくなるまで全部の肺の空気で叫んでいる

叫んでいるうちにあの会話のうちに少し晴れた気がする気持ちを思いだす

 

すこーしだけ表情に生命力が戻っている

 

 

 

 

感想ください。読んでくれてありがとうございました。